中国に於けるタングステン鉱江西湖南の巻(上~下)
新聞記事文庫 鉱業(06-105) 日本工業新聞 1941.9.8-1941.??.??(昭和16)
支那に於けるタングステン鉱江西湖南の巻(上~下)
(上)
第一次欧洲対戦前までは、中国人はタングステンの何物であるかを知らなかった、民国三年湖南省瑤岡仙にタングステン鉱を発見、欧洲戦時中タングステンの 価格暴騰で鉱業家は各地を探査して新鉱山を発見し、盛んにこれを開発したため、民国六、七年には中国の輸出タングステン鉱石は年一万余瓲に達し、世界産出国中の首位を占めるに至りアンチモニーとともに中国に於ける最も豊富な鉱産の一つとなったのである、中国に於ける、タングステン鉱の分布は湖南、江西、広東三省に誇り鉱脈縦横に千余里、出産最盛時には年産一万四千余瓲を超えた、鉱価平準に復し経営宜しきを得れば年産二万瓲以上は可能であると見られている、過去十余年間の採取量は約十万瓲で推定埋蔵量の 百分の一にも及ばない、この莫大な富源は本格的開発と経営の合理化によって今後異常なる発展が期待し得るのである タングステン鋼は軍機製造の必需品で中国の産出量は毎年世界産出量の約百分の六十五を占めている、従来は主として米、英独、仏諸国に輸出されていた、中国のタングステン商は自立の能力なく常に外国の操縦を受け殊に国内に錬鋼機関がないためタングステン鉱を消費する途なく鉱石のまま輸出し錬製品を外国から買うといった状態であって、これは経済的損失のみでなく国防的見地からいって自存能力を喪失するものである 江西省のタングステン鉱は大半彰水より九江を経て上海に至り同地から輸出されていたが、近年は産出量少く民国二十年広東よりの輸出は四千瓲に達したが九江よりの輸出は僅かに五百余瓲に過ぎなった、九江からの輸出が減少したのは産出量の低減と支那事変の進展により揚子江の航行が禁止されたためである、その結果□南の産物が多く南方に移動し広洲より輸出されるようになった、中国に於けるタングステン鉱の産地は江西省を第一とし、広東、湖南、広西、幅建の諸省がこれに次ぐ、ここには江西、湖南省に於ける重要タングステン鉱区の状態を紹介する
江西省
彰南タングステン鉱大痩嶺山脈の左右、即ち湖南、江西の南部及び広東北部の地方はタングステンの産地として有名である、江西、彰南の彰県、華南安遠、会昌、大痩、崇義、上猶南康、遂川県の諸県はいずれもタングステン鉱の産地である、就中大痩、安遠、南康は最も埋蔵量豊富の地とされている、鉱脈の範囲は東西約五、六百支里南北約四、五百支里、世界のタングステン鉱区域中第一位を占めるものといわれている この地方の鉱区は河川に近く最も遠いものでも四、五十支里にすぎない、西華口から大痩に至る二十支里の間には帆船の便がある、仁風、豊田も河を距る三、四十支里である、また竜南の亀尾山も埋蔵量の豊富なことは西華山に劣らないが水路が不便なため道を南に転じ広東に輸送している、江西省南部一帯の高山は火成岩の構成に係り、その岩石は花崗岩、班□岩、砂岩等を為し、花崗岩中の石英長石及び雲母岩の結晶が著るしい、□砂及び錫砂は花崗岩の□裂脈中に夾存している、その裂□中の石英は大小の白色結晶を成し、美観を呈している、俗にこれを鉱苗といっている、採掘するときにはこの白色の岩層に沿って掘進するのである 雲母石は黒褐色雲母である、地層の圧力変遷に因り随所に小薄片が見られる、鉱苗の両側には班□岩の組成があり俗に麻石と呼ばれている、主要鉱脈よりの出産は鴻砂約百分の九十を含み錫砂百分の一、このほか附生のモリブデン鉱があるが、顧るものなく放棄されている、小鉱脈中に産するものは錫砂が多い(つづく)
(中)
大痩県の西華山はタングステン鉱産出地区であり紅水塞は産錫の地区である、後者は毎日 出産錫砂約二十担、瀉砂は僅に七・八担である、その他鉱区中、生竜口、漂塘を除き出産はタングステン、錫折半である中秋、牛嶺脳は産錫多く、タングステンは少ない、安遠の仁風山は瀉砂十分の八、外になおビスマス鉱十分の二があり、ビスマス鉱の価格は瀉砂の約倍額であるが産量が少いので採取されていない、総ての鉱脈の構成は各鉱区大体同一である、その表面の岩石は東南向傾斜平均三十五度、鉱苗二条並行の幹脈あり、厚さ約一尺、相距ること約二十尺、その他の支脈は非常に多数の分布を為している、鉱砂は石英岩中に夾存しその 含有量は極めて不同であって時に大塊の□砂に逢着し重量数斤より数十斤のものもあるが勿論その数は僅で大部分は数匁或いは数十匁のものである故にタングステン量の計算は容易でない 湖南タングステン鉱は民国七年より発掘され既に十余年を経過したが、採掘されているのは僅かに表面の最薄層だけでその深さは約十余丈である、而して下層部は未だボーリングをしたことがないが鉱脈の傾斜は地下に浸入している点並に露頭の状態より考察してその最低層は上層に比し厚く含有量も遙かに豊富であろうと見られている、鉱区は縦横千余里に達しているが採掘はまだその 百分の一にも及ばない状態であるから経営次第では前途有望である、産□地は大痩県の西方二十支里の西華山が最も著名で安遠県の北方百二十支里の仁風山、会昌県の西南方百四十支里の豊田、また百十支里の十六□□県の東方百二十支里の黄婆地、竜南県の亀□山等がこれに次ぐものである その他三竜口、浮塘、湯坪、紅水案大江口、翆花園の東埠頭、畚田、桂花竜等は何れも大痩、崇義、上猶、南康及び会昌の各県内にある上記のごとく□南のタングステン鉱産地は頗る多く、各所に含 ●鉱脈は片岩及び片麻岩中に存在している、安遠の仁風山及び会昌の十六共に在ってはタングステン鉱は石英脈に伴い結昌している、而して周囲の岩石は花崗片麻岩及び其上の硬砂岩は脈幅数寸乃至数尺である、豊田のタングステン鉱は多くは砂積鉱床を成し山間河谷の砕石黄土中に存在している、錫華山は鉱脈を為し石英脈中に産し黄鉄鉱、黄銅鉱、□鉱、錫石等と共存している、鉱石は□鉄錫鉱を為し、脈の長さ二十余支里、幅七・八寸乃至丈余、鉱質は約百分の七十内外である、汁西省鉱産調査所の調査によるタングステン鉱の埋蔵量を挙げれば表の如くである
[図表あり 省略]
この表は安遠、会昌、大痩、南康等の諸県の鉱区九ヶ所の分であるが、この外未調査の産錫地は七、八県、産地数十ヶ所を下らず、これらは勿論埋蔵量に於て前者に及ばないが仮に前者の半額と見ても□南タングステン鉱の総埋蔵量は約七十万噸と推測されるのである
(下)
西華山及びその附近の三竜口、浮塘、湯坪、紅水塞等は平常時に於て鉱工常に万余人に達し毎日出砂二百余担、錫砂は□砂の約三分の一である、竜王山、仁風竜等は鉱床の長さ五支里、鉱工二千余名、毎日出砂六、七十担、□鉱(ビスマス鉱)を副産物として採取している、豊田鉱床の長さは約三支里、鉱工千余名、毎日出砂三十担である、十六共は鉱床狭く、産量また微量である、西□山は花崗岩に属し石英脈貫中─斜度七十五度乃至八十五度、走向は西南、鉱床は 全山面積の十分の三を占めている、鉱脈の幅数寸より六、七尺時に丈余のものがある、鉱脈の延長二十余支里、現在開坑の最も深いものは二百余尺、その産出量は未だ変化はない、タングステンの状態は概ね二種に分たれ一は細砂或は卵大のもので浄水の中に見る所謂砂積鉱床である、一は狭小の鉱脈をなし花崗岩中に存在している 茲に各鉱区産出タングステン鉱の成分、分析の結果を挙げれば
[図表あり 省略]
次に採鉱状態については、西華に豊田は総て露天堀である、鉱脈山随行して掘進する、即ち脈を追って 中央上下に鉱石を採取しつつ進むのである、時に井を掘って浸入し鉱脈の傾斜に従って下向する、故に斜、横、直の三種がある、深さは四尺乃至四十尺位各井の距離は最長十余尺である、横、斜坑は背に負って運び、直井は縄を以て吊り出す、勿論廃石、鉱石、排水皆然りである、通風は自然に委せ別に設備をなさない、空気が流通しなければ作業を止めるという状態である、坑道には支柱少く、七、八尺を隔てるごとに直径一尺五寸位の石柱を用いている、点燈には茶油燈を用い、毎井の鉱夫は三、四人より十数人である、含鉱砂の鉱石を取出した後、井のある 居住附近に携行し鉄槌で撃砕して石を棄てその砂を取り水洗して搬出する、水洗用には木製または竹製の□を用いている更にこれを鉄槌にて砕き水洗して麻袋に収め上海に移出するのである
湖南省
資興県瑤岡仙タングステン鉱
[図表あり 省略]
鉱石の価は百斤につき小銀貨二十五元、稍次位の鉱脈では百斤を採ることは容易でない、毎一担負債多きは五十元である 採掘方法は露天掘である、所産のタングステンは鉱山から北運すること三十支里、除口に至り苦力が運搬する、民国二十四五年頃に於ける毎担人夫賃八角五位置及び交通の点より見れば、資興県□の西南、□県、宜章、汝城資興四県の境界にあり、資興県城を距る百十支里、彬県県城より九十支里、宜章県城を距る百十支里地勢高峻で交通は不便である、民国十九年湖南地質調査所の調査では当時操業せる公司は僅に四軒で毎月の産額二十余瓲、その四公司の概況は次の通りである
[図表あり 省略]
分、除口から小船で三十支里、亜瓜舗に至り毎航六担を積み大銀貨一元、西瓜館から頭傷に至る毎船六担で小銀一元、頭傷から水竹灘に至る陸運で毎担人夫賃三角、水竹灘から東江に至る、この運賃の合計は瓲当り大銀貨で二十元、東江より大帆船で瓦窩坪を経、長沙に至るのである(完)
データ作成:2000.5 神戸大学附属図書館
免責事項:本ホームページに掲載されている事項は情報提供を目的とするものであり、投資勧誘を目的としているものではありません。掲載內容には細心の注意を払っておりますが、掲載された內容に基づいて被った損害については、當社は一切の責任を負いかねます。 中钨在线采集制作.
|